多発性嚢胞腎

両方の腎臓にできた多発性の嚢胞が徐々に大きくなり、進行性に腎機能が低下する、最も頻度の高い遺伝性腎疾患です。
尿細管の太さ(径)を調節するPKD遺伝子の異常が原因で起こります。多くは成人になってから発症し、70歳までに約半数が透析を必要とします。高血圧、肝嚢胞、脳動脈瘤など、全身の合併症もあり、その精査を行うことも大切です。

原因は ?

腎臓の尿細管の細胞の繊毛(尿の流れを感知するアンテナ)にある、PKD1(センサー)あるいはPKD2(カルシウムチャネル)の遺伝子異常が原因です。
正常な尿細管細胞では、尿流を感知するセンサー(PKD1)からカルシウムチャネル(PKD2)に信号が伝わると、細胞の中にカルシウムが入り、尿細管の太さ(径)が調節されています。遺伝子異常により、その機能がなくなると、嚢胞が形成されます。

遺伝型式は ?

常染色体優性遺伝であり、男女差はありません。 優性遺伝であり、50%の確率で子供に遺伝します。 家族歴がなく、突然変異として新たに発症する場合もあります。

発症様式は ?

両親から受け継ぐ2本のPKD遺伝子のうち、1本は正常なため、優性遺伝した変異のみでは発症しません。生まれてから、この正常な遺伝子に変異が起こり(体細胞変異)、遺伝子の機能が完全に喪失することにより嚢胞ができてきます(ツーヒット説)。そのため、遺伝性の疾患にもかかわらず、発症が遅く、個人差も大きいと考えられています。

症状は ?

ほとんどが30~40歳代まで無症状で経過します。 初発症状としては、外傷後(体に衝撃を与えるスポーツなど)の肉眼的血尿、腹痛・腰背部痛などが多く認められます。
急な痛みは嚢胞感染、尿路結石、嚢胞出血などが原因となります。
慢性の痛みは、腎臓が大きくなった人に多く、多くは腎臓を被っている膜が伸ばされることにより起こります。
大きくなった腎臓や肝臓を触れることもあります。進行すると、腹部圧迫症状として腹部膨満感や食欲不振などを認めます。高血圧も良くみられる症状です。健診で高血圧を指摘され、診断されることも少なくありません。

検査所見は ?

尿検査 肉眼的血尿の頻度が高く、経過中に35~50%の患者に認められます。
腎機能検査 進行すると、血清クレアチニン値の上昇、糸球体濾過値の低下が認められます。
超音波・CT・MRI検査(図) 円形の多発性の嚢胞を腎臓や肝臓に認めます。

診断・鑑別診断は ?

多くは家族歴があり、超音波・CT・MRIにより容易に診断できます。 鑑別すべきは他の嚢胞性腎疾患です。

合併症は ?

1. 高血圧
20~30歳代から認めます。腎機能正常の時から認めることも少なくありません。
2. 肝嚢胞
女性、特に経産婦で肝嚢胞が大きくなる傾向があります。通常、無症状で肝機能障害を伴うことはありませんが、稀に巨大な多発性嚢胞肝(PLD、polycystic liver disease)になり、著しい腹部膨満を呈することがあります。
3. 嚢胞出血
嚢胞壁の細血管の破綻によると考えられています。出血による肉眼的血尿のほとんどは安静と輸液などの保存的治療で数日以内に消失します。
4. 嚢胞感染
高熱、腹痛を認めた場合に疑われます。難治性となり再燃を繰り返すこともあり、嚢胞の穿刺排液を積極的に行ったほうがいい場合もあります。
5. 尿路結石
痛みと血尿を認めます。
6. 脳動脈瘤
脳動脈瘤の家族歴がある場合は一般の10倍以上多く認められます。破裂によるくも膜下出血の頻度も一般の約5倍で、発症年齢も40歳前後と一般に比べて約10年若いといわれています。致死的疾患であり、脳MRAによりスクリーニングを行います。
7. その他
他臓器(膵臓、脾臓、くも膜など)の嚢胞や僧帽弁逸脱症、大腸憩室、鼠径ヘルニアなども合併することがあります。

経過・予後は ?

多数~無数の嚢胞により腎臓の腫大が明らかになるまで、糸球体濾過値はネフロンの代償のため正常です。
40才頃から糸球体濾過値が低下し始め、約70歳までに半数の患者が末期腎不全に至ります。その低下速度は平均5ml/min/年で、腎機能が低下し始めると比較的速いのが特徴です。
腎機能に影響する因子は、遺伝因子(PKD1の方がPKD2より進行が早い)、高血圧、尿異常の早期出現、男性、腎容積やその増大速度、左心肥大、蛋白尿などがあります。

治療は ?

嚢胞形成を抑制するバソプレシン受容体拮抗薬(トルバプタン;商品名サムスカ)は、現在すでに臨床で使われており、当院でも処方が可能です。降圧薬はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)などのRA系阻害薬が第一選択です。