ファブリー病

ファブリー病は、細胞内リソソーム(ライソゾーム)の加水分解酵素のひとつである「α-ガラクトシダーゼ(α-GAL)」という酵素の遺伝的欠損や活性の低下により起こる疾患です。
この酵素は、「GL-3またはGb3(グロボトリアオシルセラミド、別名セラミドトリヘキソシド:CTH)」という糖脂質を分解する働きを持ちますが、活性が不十分だと分解されなかったGL-3が徐々に全身の細胞や組織、臓器に蓄積していきます。蓄積したGL-3がある一定量を超えると、疼痛を含む神経症状、被角血管腫(ひかくけっかんしゅ)、角膜混濁(かくまくこんだく)の他、心機能障害、腎機能障害など、様々な症状が出現します。

ライソゾーム病とは?

ライソゾーム病(リソソーム蓄積症)は、細胞内の小器官であるリソソーム(ライソゾーム)の中に存在する様々な加水分解酵素の欠損または活性の低下により代謝が障害され、そのために発症する一連の先天性代謝異常症です。
細胞内リソソーム(ライソゾーム)には数多くの糖質、脂質、ムコ多糖などを分解する加水分解酵素が存在し、欠損している酵素の種類により約30疾患が知られ、代表的な疾患としてファブリー病の他に、ゴーシェ病、ポンペ病、ムコ多糖症などが含まれます。

症状は?

(どの患者さんにもすべての症状が必ず出るとは限りません。また症状の出方や時期についても個人差があります。)

神経の症状

– 四肢疼痛
手足に強く、焼けるような急激な痛みが生じ、数分から数時間持続します。毎日起こることもあり、発熱を伴う場合もあります。
また、持続的は感覚異常(鈍くなる・しびれる・チクチクする)も起こることがあります。
これらの痛みはストレスや気温・体温の変化、疲労などでしばしば引き起こされます。
症状は幼・小児期より出現することが多いです。

– 聴覚低下
耳の神経が障害をうけ、耳が聞こえにくい、耳鳴りがするなどの症状が現れます。

眼の症状

– 角膜混濁
角膜に渦巻き状の混濁が確認されます。症状は幼児期より出現することが多く、一般的に視力には影響がないと言われています。
他に、結膜、網膜の血管病変、水晶体の混濁などが認められます。

皮膚の症状

– 被角血管腫
赤紫色の発疹が胸から膝まで、特にお腹、おしり、陰部などに出現します。
痛みやかゆみはありません。小児期より出現することが多いです。

– 低・無汗症
発汗機能が障害されるため、皮膚が乾燥し、暑くても汗をかきにくくなります。
また、体温調節ができなくなるため、真夏の炎天下のような環境ではうつ熱(体内に熱がこもること)発作や立ちくらみ、さらには便秘、下痢、吐き気などがみられるようになります。
幼児期より出現することが多いです。

消化器の症状

– 胃腸障害
食後に腹痛や下痢、吐き気、嘔吐などが表れます。
小児・青年期より出現し、年齢とともに悪化することがあります。

腎臓の症状

– 腎機能障害
尿中にタンパクが漏れ出てきて、その後腎不全にまで至ることがあります。重篤な臓器障害のひとつです。
思春期・青年期以降に出現することが多いです。

心臓の症状

– 心機能能障害
心肥大や心筋梗塞、弁膜の異常、不整脈などが現れます。腎不全と同様に重篤な臓器障害のひとつです。
青年期以降に出現することが多いです。

脳の症状

– 脳血管障害
脳梗塞や脳出血を起こし、記憶障害や運動麻痺をきたす場合があります。
中年期以降に出現することが多いです。

精神の症状

– 精神障害
病気や症状のストレスなどから、うつ症状やQOL(生活の質)の低下などがみられることがあります。

遺伝形式は?

ファブリー病は遺伝性の疾患です。

α-ガラクトシダーゼという酵素をつくる情報を持っている遺伝子は、性別を決める染色体のひとつであるX染色体の中にあります。病気を引き起こす異常なX染色体の遺伝子は、正常なX染色体の遺伝子に補われるため、女性では発症しにくいです。しかし、男性の場合は異常なX染色体を補う遺伝子がY染色体に存在しないため発症しやすいとされています。

α-ファブリー病の母親からは男児、女児にそれぞれ2分の1の割合で遺伝し、父親からは女児には遺伝しますが、男児には遺伝しません。この遺伝の形式は、古典的ファブリー病でも、亜型ファブリー病でも同じです。しかし、同じように遺伝していても、患者さんにより症状が強い人と、軽い人がいますので、遺伝子の異常だけで全ての症状や程度を説明できるわけではありません。

診断は?

次のような診断方法をいくつか組み合わせて、ファブリー病の確定診断を行います。

症状の確認

「ファブリー病の症状」であげられているような、ファブリー病に特徴的な症状があるかどうかを調べます。

酵素診断

血液中の血漿(けっしょう)、白血球、あるいは尿中のα-ガラクトシダーゼ(α-GAL)活性の測定を行います。酵素活性の欠損または低下が認められれば確定診断となります。

病理診断

皮膚や腎臓、心臓などの組織のごく一部を採取して、異常があるかどうかを顕微鏡で調べます。

生化学的診断
主に血液や尿を採取し、そのなかの糖脂質GL-3が蓄積しているかを調べます。臓器の組織中のGL-3の量を調べることもあります。

遺伝子診断

血液や皮膚の細胞を使って、遺伝子を検査します。女性のファブリー病では、酵素活性のみでは診断できない場合があり、このようなときに遺伝子診断が行われることがあります。

治療は?

ファブリー病の治療には、酵素補充療法と症状を緩和させる対症療法があります。

酵素補充療法

ファブリー病は、「α-ガラクトシダーゼ」という酵素が欠損したり、活性が低下しているために起こる疾患です。
酵素補充療法は、欠損したり活性の低下している「α-ガラクトシダーゼ」を製剤化した薬を点滴で補充し、体内で蓄積している糖脂質(GL-3)を分解・代謝する治療法です。症状の改善や病気の進行をおさえることができます。
日本では現在、2つの遺伝子組換え製剤がファブリー病の酵素補充療法治療薬として認められています。

薬の投与方法

体重によって必要な量が決まっていて、その量を2週間ごとに点滴で補充します。
1回の投与に40分から2~3時間ほど時間をかけて薬を点滴します。